ある日、相続が発生した。

何はともあれ、まずは戦ってみましょうか。

ある家族の話

色々と思うことがあるので、相続とは別の日記を書いてみよう思います。

価値観とか存在価値とかそういう話になりますが、けっこうえげつない書き方をしますので、見たくない方は見ない方がいいかと思います。





とあるとこに一つの家族がありました。

家族構成は父、母、長女、次女の四人家族です。

この話は長女の視点で書いてみます。



物心ついた時、長女の心には父親に対する恐怖が植え付けられていました。

きっかけや原因は分かりません。何しろ長女の記憶、小学生くらいまで殆どないんですね。

でもまあ、それでもあるだけのことを書いてみると。

小さい頃、母が作るクッキーが好きだった。

オルガンが置いてあって、それを弾くのが好きだった。

エレクトーンを習っていた。

近所のご家庭に乱入して、おばさんと遊んでもらうのが好きだった。

悪いことをして閉め出されて妹と泣いた。

自転車で後ろに友達を乗せ、坂道で豪快に転び、顔から突っ込んで見た目が酷いことになったのはいいが、後ろの友達は足を捻挫して長女より酷いことになった。

長女は小児喘息持ちだった。



父の話では長女は三歳くらいの時、妹の頭に缶詰を落としてしまって、猛烈な勢いで父に殴られて吹っ飛んだことがあるようです。

その記憶は長女にはありません。

父の話では長女はびた一滴の涙も流さず、じっと父を見つめていたそうです。

多分、長女は父に殺されると思ったのでしょう。



ある日長女は泊まりに来ていた従妹の二人と、次女の妹と風呂に入ることになりました。

風呂を沸かしすぎたから気をつけるように言われました。

妹が風呂の縁に座っていて、突然後ろにひっくり返って熱湯の中に落ちました。

風呂に駆けつけた父と母。

父はその場にいた長女を張り倒します。



お前のせいだ!!!



……長女、なにもしていません。

妹は自分で落ちたんですよ。

長女はごく普通に従妹と喋っていたんです。

何で殴られるんでしょうか。

妹が風呂に落ちたのは長女のせいなんでしょうか。



喘息で学校を休むと父が長女に咳をするなと言います。

うるさいんだそうです。

そうですね。喘息の咳はうるさいですからね。

長女は父の前で出来るだけ咳をしないように努力しました。

長女は病人には冷たくあたらなければならないと学びました。



長女は次女と幼い頃にはよく喧嘩をしていました。口喧嘩です。

でも長女はどうしても次女に口喧嘩で勝つことが出来ませんでした。

次女の言っていることが理解出来なくて言い返すことが出来ないんです。

怒りから長女は次女を突き飛ばし、次女が泣き出すと親は長女を叱ります。喧嘩をするなと言われます。

喧嘩の理由を訊ねられることはありません。

おまえが悪いんだそうです。



そのうち長女は次女と喧嘩をしなくなりました。

相手にしなければいいのだと学んだようです。

親は仲良くなったのだと思ったらしいです。

違います。

長女は次女と関わることを止めただけです。真剣に関わっても仕方ないと、スルーし始めたのです。ですが、喧嘩がない=仲良くなるという図式しか思い浮かばない父と母は、仲良くなったと思ったようです。



長女はやがて高校生になりました。

部活の後で家に戻る時には、必ず玄関前で自分の顔を平手で張り、学校で何事があったとしても上機嫌の振りをして家に入るようになりました。

そうでなければ父に殴られるからです。

父は仕事で嫌なことがあると、家で必ず誰かに八つ当たりをします。そして母はそんな父を止めることが出来ません。聞くところによると、どうやら長 女が幼い頃、父は暴力を揮うために母と二人の子供を追いかけ回していたようです。そんな父から母は二人の子を連れて逃げていたらしいです。



ある日、次女の担任と生活指導の教師が家を訪ねてきます。

どうやら次女は学校でリンチを食らったようです。

生活指導の教師は長女が中学の時の担任でした。その場の嫌な雰囲気を無視し、長女は教師に気楽に挨拶をしました。

教師二人は父と母にこの件で警察に行って欲しいと言いました。

その頃の中学校の荒れ方は尋常ではなかったようで、教師二人はもう学校内で片付けられる問題ではないと考えたようです。

父曰く、



うちの娘がそんなことをするはずがない。

なんで娘が警察に行かなければならないんだ。



父は教師に向かって怒鳴ったそうです。

長女はその話を後から聞きました。

長女は教師二人に同情しました。何故なら教師の言うことの方が正しかったからです。

次女は結局、警察に行ってそのことについて事情を聞かれたようです。

そして次女をリンチした生徒が親に伴われて詫びに来ました。

実はこの生徒、長女の部活の後輩でした。

長女はフーン、という反応だけしました。興味がなかったからです。



次女は学校で教師が長女の話を持ち出すのが気に食わなかったようです。

長女は中学高校では品行方正、規律を乱すこともなく、生徒手帳に掲載されてもいいくらい真面目な格好をしていました。

流行の髪型や服には興味がなく、違反をする理由がなかったからです。

ですが次女はおしゃれのつもりなのか、制服を規定通りに着ることはありませんでした。

それが教師の目に付いたようです。そのため、次女を叱る時に長女のことを引き合いに出していたようです。

次女は長女に愚痴を言います。ですが長女はそれをスルーしました。教師の言にまで責任をとる必要はないからです。



そして次女は長女と同じ学校を受験して落ちます。

その時の母の言葉。



妹が落ちたのはあんたのせいだ。



困りましたね。妹が受験失敗したのは長女の責任のようです。

母が言うには長女が受験勉強をせずに高校に合格したのが悪いそうです。



長女は家の中では生きていませんでした。

幼い頃から外に生きていました。

家の中に居場所がないことを、幼い頃に覚えたからです。

外の世界はとても楽しく、そして人々との関わり合いが面白かった。

そして長女は短大を卒業すると、すぐに家を出ます。



しばらくの時間が過ぎた時。

長女はふと母に訊ねます。



なんで離婚しないの?



母は困ったように笑って言葉を濁しました。



そして更にしばらくの時間が経過し、長女は父の説教なのか言いがかりなのかをスルーしました。

すると母と次女が長女に猛烈に迫ります。

何でちゃんと父の話を聞かないのか。



長女、悩みます。

母と次女はずっと以前から父のことをスルーしていました。

父が愚痴か言いがかりを口にし始めるとスルーするんです。そして唯一、スルーすることが判らない長女に矛先が向く。

そして長女がスルーすることを覚えると、それが気に入らないと母と次女がケチをつけるんです。



何で私は駄目で、あんたたちはいいの?

それじゃなに、私はあんたたちの保護のためにサンドバッグのままでいろと?

私はスルーの方法が判らなくて、20年以上我満した。

次はあんたたちの番じゃないのか?







これが長女の目から見た、とある家族の話です。

存在価値と価値観は己が決めるものです。

ですがその決定には環境が大きく関わってきます。

それでも選択するのは自分でしかありません。

たかが家族。されど家族。

どこで生きるかを決めるのは、自分自身です。